「今日は何用なの、全く……」
呆れた声が背後からふって来て、弥勒は顔を上げた。
「いえ〜、分からないところがありまして」
満面の笑みが分からないところなどないのだと告げている。
「……あんたね……A判定これでもかって出してもう教えるとこないんだけど?」
珊瑚は手元の過去問題集をばさりと弥勒の顔に投げつけた。
「あだっ……いえ、ほんとに分からなくて……」
「なーにーが」
むすりと膨れて弥勒の机の隣にある椅子にどかりと音を立てて座った。
ぎしりときしむ。
「お前の気持ちが」
「従姉妹でも先生に対してお前は禁止だって言っただろ!?」
入試本番直前である二月の中旬、ぱらぱらと彼の解答に無言で目を通す珊瑚。
字も綺麗、解答も理路整然として完璧である。
「ほら、全部正解」
渡した解答用紙に何も修正することなく、珊瑚は弥勒にそれを手渡した。
「正解なんですか?」
「だから、全部合ってる。数Vも完璧」
「その話じゃありません」
ぐいと詰め寄られては? と珊瑚は目を上げた。
「私が聞いているのはお前の気持ちなんです」
「はあ?」
「好きですか? 私のこと」
あまりにも単刀直入すぎるだろうが、鈍感な彼女にはこのくらい言わないと通じないことは承知していた。
何のことか分からないという表情で首をかしげた珊瑚に、弥勒は深いため息をついた。
「恋愛の話です」
「そ、そう……」
さすがの珊瑚も話の流れが分かったらしく、若干頬を赤らめる。
「付き合って、くれますか」
見つめられて珊瑚がぷいと目をそらしてまた参考書を投げつける。
「……あんたが落ちたら付き合ってあげる」
「……それはひどい」
「ていうか、従姉妹なんだけど」
「ぎりぎりセーフですよ?」
くすりと弥勒が笑うと、珊瑚の手をぐいと引く。
あ、とかすかな声が上がって、そのまま無言で抱きしめられる。
しばしの至福の時はどこまでも無音に過ぎて行く。
幸福を奏でる音楽は、感じている彼女の鼓動だけでいい。
「あ」
突然の珊瑚の声に弥勒はん、と彼女が目線を向けた先を見た。
そこにあるのは自分のノートPC。
勉強の合間にネットなどして遊んでいたものだ……が、今見られては非常にまずいものがその横にあった。
ずかずかとプリントに埋もれたそれをサルベージする珊瑚。
「……『家庭教師のおねえさん エッチの偏差値あげちゃいます』……?」
「のあ、さ、珊瑚、それは別に……!」
慌てて止めに入る弥勒だったが、間に合わなかった。
ぶんと投げられたエロゲの新品パッケージ……まだインストールさえしていなかったのにと心のどこかで思った瞬間には、顔面に巨乳のお姉様の絵が激突していた。
「あんたの偏差値なんかもうこれ以上上がらなくていいから!」
Which do you like?
家庭教師珊瑚設定。従姉妹設定。きゃんでぃそふとに影響されすぎとか、アトリエかぐやだとかそういうつっこみはお待ちしてます。
エッチの偏差値は弥勒さんはもう上がらなくていいと思います。
お久しぶりの煩悩更新でした。
09.13 漆間 周