煩悩108部屋

ゆっくりとホルスターが回転する。
かちゃりと落ちた薬莢が独楽のようにまわって静止した瞬間。

バーのカウンター席から二人は一瞬にして立ちあがり、手をついてカウンターをまたいだ。
息を殺す必要などない。

――こんな連中、余裕だ。

ふっと二人は顔を合わせて笑った。
以心伝心のショー・タイムが始まる。

「脱出路は?」
「そんなの、正面突破だろう」

にぃと彼女は嗤い、跳躍する。

「トゥー・ハンドの名前は伊達じゃないって……思い知らせてやるよ、あんたらが誰の引き金かなんて聞く価値もないさ!」

バーに侵入した数名のゴロつきが女一人で何が出来ると嘲笑する。
カウンターの上に仁王立ちになった彼女がばぁーん、と小声で呟いた時。
金髪の一人の男が構えた銃。
その引き金の部分に、見事一つの弾丸がハマる。

「て、てめぇ、何しやがった!」
残りの男たちも再び銃を構える。
「あたしかな……それとも他の誰かかな?」

余裕の態度でゆっくりと。
その腰の二拳銃に手を伸ばし、マカロニ・ウェスタンの如く空中で回転させ手にはめる。

「これは、警告」

真上に上げた右手は、迷いもなく天井のファンをぶち抜いた。

「ンなもんにビビるわけがねえだろ!」
再び例の金髪の男が銃を構える。震えた手で。

「そんな震えた手でビビってないだって?」
迷わず打ち込むのはその男の方向。
だが、殺しはしない。
それがポリシー。

激しい金属音と共に再び使い物にならなくなった銃に男はあわてふためく。
恐らく彼がこいつらのまとめ役なのだろう。
お前らやれ、やれ、と叫ぶ。

そして始まった弾丸の嵐。

「はははははっ、法師、出番だよ!」

「仏に仕える身、殺生はいたしません」
そう言って彼が煽ったのは幸い割れずに残っていたウイスキーの瓶。
そしてもう一つ、それはそれはアルコール度数の高いあの酒をとぽとぽとぶちまける。

「はぁ、また私のエロマッチコレクションが」

そして炎が出口に向って一直線に奔る。

「エロマッチなんてまだ集めてたの!?」
「今はそういう状況ではないでしょう、行きますよ、珊瑚」

二人は炎の上を、走る。
ちょっとしたマジックだ。

野郎、という声と共に、炎に踏み込めずとも銃口を向けてくる輩もいる。
弥勒はそれを、珊瑚が最初の一撃でぶちぬいたファンの棒でなぎ払う。

表には車が意外にも安全だった自分たちの車が。

「なんだ、あいつら自信過剰なんじゃないの?」
「逃げ道は潰しておけ……常套手段ですのにね」
ふふ、と弥勒は笑って、珊瑚に乗れと合図する。

後に座り込んだ彼女の役割は、追っ手が諦めるまで撃ち続けることだ。

その二本の腕から繰り出される弾丸の、見事なまでの正確な狙いに彼らも諦めたのだろうか。
もう、後ろに奴らの人影はない。

「法師、行ったみたい」
「いい加減その法師というのはやめませんか、珊瑚」
「だって袈裟着て銃ぶっ放す変わった奴だもの」
「共に育った人間にもう少し丁寧に出来ませんか」
「寺であたしを拾ったのはあんたの勝手さ」

もう後にいる必要がなくなった珊瑚は、助手席へと移動する。

「このロアナプラで生きていくには何でもやったさ……盗みも。殺しも」
「でもお前は私と出会って少なくとも殺しは止めた、違いますか」
「……その気になればいつでも殺せるさ」
「そう言って殺しはしない、良いことだ」
くく、と笑う彼の横顔を盗みみて、珊瑚もまた笑った。
「坊さんのくせにあたしと組んでこんな危ないことしてるくせに言える立場?」
「坊さんじゃありません、法師です。そしてここはロアナプラ、私とてお前と同じ」

びゅんびゅんと吹き抜けるいつでも湿気をまとった風。

「次はどこへ行くの?」
「……そうですね。狙った相手が誰か分からない。情報を、シスターのところへ」

シスター、と珊瑚は笑って弥勒の懐を探り、エロマッチを取り上げた。

「まーたこんなの集めて」
「趣味です」
「……あたしだけ見ててくれればいいのさ」

グッバイ、と呟いて珊瑚はそれを車のウィンドウから放り投げる。
すかさず抜いた銃はその真ん中を見事に射抜く。

そうだよ、あんたは生きるために何が必要か教えてくれた。
あの何もかもを憎む目をしていたあたしは、今ここにいない。
そして、あたしはこれ以上罪を犯さない。

「あんたのエロマッチに誓うよ」
「何をです?」

「――別に」


I promise...



お久しぶりの煩悩更新となりました。
七番だけに007チックなことがやりたかったのですが、自分の好きなブラック・ラグーンのパロにしました。
かっこいい銃撃戦とか書いてみたかったもの。
なんですが、スピード感足りないです。技量不足。
で、弥勒と珊瑚には人を殺して欲しくなかったので、ご都合主義この上ないですが、武器を取り上げる、という道で行っていただきました。
設定は珊瑚は幼い頃はスラムで荒れた生活。
ある時寺院の(タイだから……袈裟はあましジャパニーズじゃないけれど、そこはそのままの弥勒法師で:笑)同い年だった弥勒についてこいと言われて共に育った。
かっこよく戦う珊瑚が書きたい!
それは、現代パロでやりますのでv

09.08.09 漆間 周