アンダー・ザ・シークレットブロッサム

私立藤桂高校。
四月、新入生を迎えたこの時期、満開の桜が並ぶ。

弥勒と珊瑚は二人、校門から並んで13番目の桜の木の下に立っていた。
時刻は四時を過ぎ、クラブ活動に精を出す生徒たちの声が聞こえる。

「さて……来ますかね」
「さあ?」

腕組みして空を見上げる彼の横で、くすりと珊瑚は笑う。
そりゃあ、生徒会の手伝いをしてくれる人間はほしい。
手伝いといっても、普通の手伝いではない。
生徒会役員は選挙によって決められる、が。
求めているのは選挙によってやってくる役員ではない。
妖異退治を裏の顔とする、藤桂高校生徒会、通称「不治棚」は特別な能力を持った人間を必要としているのだ。

「この、13番目の桜」
ひとひら、散った花びらを見据えて弥勒は呟いた。
「果たして、見えますかな……?」
不敵に笑んで彼は、鈴をりぃーんと鳴らした。

そう、藤桂高校には校門から並んで左右に12本の桜しかない。
だが、そこには隠された桜が存在する。
校門から向って右、13番目の桜の木。
これこそ、真に求める生徒会役員を待つ場所なのだ。
なぜならこれは、能力のある人間にしか見えない――。

***

「ねえ、犬夜叉」
「なんでい」
「一緒に、探してくれるんだよね?」
はぁ、とため息をついてかごめは項垂れた。

「あれ……大事にしてたのに」
くぅ、と唇を噛む。

――犬夜叉がくれた、揃いのネックレス。

学校では身につけられないから、スカートのポケットに入れていたのだが、いつの間にかなくなっていた。
気付いたのは、昼休み。
そこで放課後一緒に探してくれと犬夜叉に頼んだのだった。

「別に、また買えばいいじゃねーかよ」
なんでそんなにこだわる、という表情で犬夜叉はかごめの顔を見つめた。
「ばか! あんたってほんっと女心分かってないのね!」

――だってあれは、最初にくれたクリスマスのプレゼントだから。

「あ……」

かごめは、校舎の横、桜の木の下に人影を見つけた。

「すいません!」

駆け寄ってきた彼女に、弥勒がん、と顔を向ける。
「おや、これまたお美しい……」
「ばか……何? どうかしたの?」

「え、えっと、探しもので。ネックレス……なんですけど、見ませんでした?」
「どんな?」
弥勒がふ、と笑う。
「えと、十字架と……」
「円の組み合わせの、ペアのシルバーネックレス、ですね?」
くく、と笑った彼は、制服のポケットから銀のものをしゃらりと取り出す。

「あ、そ、それです……!」
「会長……落し物拾ったら事務室に届けなよ」
「いえ、少し、ね」

「あ、ありがとうございますっ!」
ぺこりと頭を下げ、弥勒の手からそれを受取ろうとかごめは手をのばす。
だが、弥勒は意に反してさっと、その手をのけた。

「え、ちょ、ちょっと!」
「すぐにはお返し出来ませんな。そこの男子。お手合せ願いますか?」

「は、はぁ?」
意味の分からない言葉に、かごめは愕然とする。

不敵に笑んだ弥勒に、犬夜叉は、入学早々喧嘩かよ、と呟いて拳を鳴らした。

「犬夜叉!」

犬夜叉はふわ、と空中に飛び上がって、弥勒の元に接近する。
返せ、と言わんばかりに彼の右手をつかもうとする。

が。

「ふっ」
犬夜叉の伸ばした右手に自身の右手を引きつけ、バランスの崩れた体に足を絡める。
「うぉ!?」
自身の力を流されるように、もろに受けて犬夜叉は吹き飛んだ。

「て、てめぇ……」
「単なる合気道です。……この程度、ですか?」
くす、と笑って弥勒は、地面に倒れた犬夜叉を見おろした。

「お返しいたしますよ」
先程とはうって変って人のいい笑みをうかべて、かごめにネックレスを返す。
「あ、ありがとう……って、犬夜叉!?」

慌ててかごめは犬夜叉のもとへ駆け寄る。
うぐ、と呻いた彼はよろりと立ち上がった。

「てめぇ……喧嘩を売っておいてそりゃあねえだろ」
「あなたのはただ力任せだ。もっと柔軟におなりなさい」
「会長、そろそろ……」

喧嘩っ早いタチらしい犬夜叉の様子を見て、珊瑚が促す。
「ああ、はい。そうですね」

弥勒はふらり、とかごめにかけより、その両手をひしと握りしめた。
「生徒会に、入りませんか?」
「何も手は握らんでいい!」
珊瑚の蹴りが弥勒の脳天に命中する。
あひゃ、と情けない声で倒れて、これは浮気には入りません、と弁明する。
「フンッ。もういい。会長に任せてるとややこしくなる」

「桜、見えるんだろ? そこの、彼も」
「え、桜……? この木が何か?」
「ふふっ……別に。ま、とりあえずそこの彼と一緒に、生徒会に入る気があったら、明日、放課後生徒会室においで。待ってるから」
そう言い残し、会長、じゃあ帰ろうか、と言って珊瑚はかごめに手を振った。

犬夜叉があの野郎、と恨めしげに唸っていたのは言うまでもない。

***

「ネックレス、どうしてとっておいたのさ」
帰り道。
肩を並べて歩く。
優しい春の風が二人の背中を押す。

「気を、感じたからですよ。ネックレスに」
「そう……明らかに、見えてたね、あの二人は」
「ですな。目線が我々の頭上に行っていた」

「明日、来てくれるといいけど」

そうですね。
弥勒はそう言って、さらっと自然に、彼女の右手を握った。

「え……?」

「たまには、手をつないで帰るのも良いでしょう?」
にこり、と笑う彼。
な、と顔を赤くする珊瑚。

「だ、だって、周り! 周り! ウチの生徒、いるし!」

嫌だ、と離そうとする手を弥勒は離してくれない。

「も、もう、バカ! 今日だけだからね!」
「はいはい、分かりましたよ」

くすっと笑った弥勒の顔があまりにも無垢で。
ふあ、と見とれた彼女だったが、その耳のピアスに目が行って。

「あ、ピアス禁止!」
「勘弁して下さい、委員長」
困ったような声を出しながらも、楽しそうに笑う。

――全く、きっちりしたことだ……。

外せ外せと喚く彼女に、いいえ外しませんー、と答えて、弥勒は笑う。

それは、普通の高校生の、帰り道。


to be continued...



かごめと犬夜叉が出てきましたー。犬かごも混ぜていこうかと思っております。
というか七宝ちゃんたちの出番は…どうしたらいいんでしょう。ううん。
学園モノの醍醐味はやっぱり帰り道だよなあ、と思いつつ、非常に短い帰り道シーンでした。
これ手つないで「バルス!」ってやった覚えがあるぞ、私は…。
ちょっと法師にもやっていただきたいな(笑)
ではでは、ここまで読んで下さってありがとうございました。

2009.06.30 漆間 周