Fantasy!

「七宝、てめえ邪魔だぞ!」
「おらを潰すな!」
「これこれ、おやめなさい」
「ん〜、狭いい!!」
「……ちょっと法師さまどこ触ってんの!」
「ふっ、ここなら反撃もできまい……」
「うわああああ、かごめちゃん、この人浄化して! 浄化!」
「出られないのよ〜!!」
「みぃ……」

阿鼻叫喚にも似た問答が繰り返される場所。
そこは、日暮神社骨喰いの井戸。

格子から淡く降り注ぐ光の中、一行は井戸から這い出るべくもがいていた。
犬夜叉、かごめ、弥勒、珊瑚、七宝、雲母。
六人と言おうか、五人と一匹が這い出るにはちと狭い。
何も一気に出なくて良いものを、突如起こった奇跡に一行は興奮気味だった。

まさか、あの井戸を犬夜叉とかごめ以外が通り抜けることが出来るなんて。

犬夜叉が強引に体を引き抜く。
一人出ればあとは簡単である。
慣れた様子でかごめがひょい、と井戸をまたぎ、次いで雲母が物怖じすることなく飛び出した。
残された弥勒と珊瑚、七宝は井戸から顔をのぞかせ不思議そうに日暮神社のほこらを見つめている。

「まさか通れたとはのう……ここはかごめの国なのか?」
「でしょうねえ」
弥勒の肩の上で七宝はぷんぷんと尻尾を振る。
「おら、びっくりじゃ!」
「まあまあ、七宝ちゃん、弥勒さま、珊瑚ちゃん、とりあえず出てきてよ」
かごめが微苦笑して七宝に手を差し伸べる。
「うん……でも」
とまどい気味に返事する珊瑚は、井戸の端につかまりながら下を眺めていた。
「枯れ井戸……本当に」
かごめちゃんの国に?
「まあまあ、通れたものは通れたのですから、もう考えたって仕方ないでしょう」
そう言いながら珊瑚の尻に手を伸ばす弥勒の腕に。
「この助平があっ!」
とてもぶらさがっている状況とは思えぬ運動神経で珊瑚は弥勒を全力で蹴り上げた。
勢いで弥勒が井戸から放り出される。
「……、す、少しは加減を」
地面に激突した勢いで、たんこぶのできてしまった頭をさすりながら法師が苦笑する。
「フンっ」
いつもの如く痴話喧嘩を始めかねない珊瑚に、かごめが手を伸ばした。
「あ、ありがと」
かごめに引き上げられてやっと珊瑚が井戸を出る。

「これで、全員ね」
さて、どうママたちに説明しようかしら。
この人たちが一緒に旅をしてる人ですー、戦国時代から来ましたー。
なんとも細かい説明抜きであるが、犬夜叉を平気で迎え入れてくれる家族なら心配はあるまい。
きっとママもじいちゃんも草太も歓迎してくれるだろう。


と、いうわけで。
日暮家居間に一列に並んだ一行。
「えーと、なんでか分かんないけど犬夜叉以外のみんなも井戸をくぐれちゃったの」
目を丸くして五人と一匹を見るのはかごめの母親、祖父、弟。
犬夜叉以外にも旅をしている仲間がいるとは聞いていたが。
「で、この五人が一緒に旅をしてる仲間。じゃ、自己紹介」
「自己紹介!? おめーが説明すりゃいいじゃねぇか」
犬夜叉が目をむく。
なぜなら一部は少々落ち着きなく、七宝はきょろきょろとあたりを見ているし、珊瑚は戸惑いがちに床を見つめているばかりだし。
まあ雲母と弥勒は落ち着いたようすだったが。

「んー、めんどくさいし」
「おい」
「まあいいじゃない。じゃ、犬夜叉からー」
ねっ、と満面の笑みで微笑まれては犬夜叉もさからえない。
それはある意味おすわりよりも強力かもしれない。
「あーっと、まあ何回も来てっから分かってると思うが……犬夜叉でい」
むすっと横を向く犬夜叉にかごめは苦笑するが、家族はうんうん、と笑顔で見つめている。
はじめの驚きはどこにいったのやら、皆「で、次は?」というまなざし。

「おら、七宝というんじゃ。狐の妖怪じゃ!」
「七宝ちゃんね。尻尾がかわいいわぁ」
うふふ、とお茶をすすりながらかごめの母がほほ笑む。
愛らしい狐妖怪はその様子に心底安堵したようだった。
久方の「母」に触れたからかもしれない。

「弥勒と申します」
しゃらん、と錫杖の音と共に頭を下げる弥勒。
「お坊さまね?」
「……法師です」
さすがに人妻には「私の子を産んでくださらんか」は言わないものの、坊主か法師か、そこには弥勒なりのこだわりがあるらしい。

「えーと、珊瑚ちゃん?」
一番緊張した面持ちの珊瑚に、かごめは促す。
何分彼女は警戒心が強いのだ。
もしくは、家族を全て失った彼女に、かごめのこの家が彼女の悲しみを増強させているのかもしれない。
家族そろった団欒の間、が。
「珊瑚と……申します。妖怪退治屋です。この猫又はあたしの相棒で……雲母って言います」
ぺこり、と頭を下げるものの、彼女は始終床を見るばかり。
心配そうに雲母がみぃ、と鳴いた。
「ねこまた、というのは妖怪なの?」
そんな珊瑚にかごめの母が声をかける。
「え、あ、はい。変化したら二人くらい乗せて飛ぶこともできて」
驚いて顔を上げる珊瑚。
「へぇぇ、すごいのねえ、雲母ちゃんは。こんなに小さくてかわいいのに。それに妖怪が相棒で妖怪退治! 珊瑚ちゃんは強いのね」
全く害のない、かごめの母親のほほえみとあたたかな言葉に、珊瑚は少々安堵したようだった。
「はい。これで……飛来骨って言うんですけど、妖怪の骨で出来ていて、これで妖怪を倒すんです」
「まぁ……! そんな大きなもの、投げられるの!? すごいわぁ……」
「え、そ、そんな。訓練しただけで……」
珊瑚にとっては当たり前の武器をそう言われると、なんだか恐縮してしまう。

「こんなにしっかりした皆さんと旅をしてるなら、かごめも安心ね」
にこり。
祖父の方は妖怪に反応したようで、七宝と雲母を交互に見つめている。
草太といえば珊瑚の顔をじーっと見上げている有様。

「ね、ママしばらくみんなうちに泊めてあげていいでしょ?」
かごめはぽんと手を打って母親に許可を求める。
「ええ、いいわよ。皆さんゆっくりして下さったらいいわ。戦国時代のお話も聞きたいし」
時間ねえのに、とぶつぶつ繰り返す犬夜叉に、さりげなくおすわりを言い放ち、かごめは一行に向き合った。

「ここは私の家だから、ゆっくりしていってね! 妖怪もいないからのんびりできるわよ。外にも明日は行きましょ!」

何やらかんやらで一番嬉しそうなのはかごめかもしれない。
突然起こった奇跡に、目がきらきらと輝いている。

そして、一行の夢の時間がスタートした。


next

もう絶対書きたい!と思っておりました犬夜叉一行現代に来ちゃいました話。
ベースには弥珊を入れますが、一行の団欒ということでお楽しみいただけたら幸いです。
書きたいことだらけなので連載にいたします。
まずは何にしようかしら(笑)
とまれかうまれ、ここまで読んで下さってありがとうございました。

2009.05.18 漆間 周