Fantasy!

「決めたっ!」
かごめは嬉しそうに叫んでベッドから飛び降りる。

かごめの部屋には全員集合。
昼のあたたかい日差しが窓から差し込んでいる。
何やら絵の沢山のった本を一人で見ながら、ふーむ、と唸るかごめに全員が不思議そうな目を向けていた。

かごめが見入っていたのはJJとMen's non-no。
三人の服を決めるべく思案に思案を重ねていたのだ。
ただ七宝の服をどうすべきか少々考えるところではあった。
何しろ、尻尾を隠すにはスカートしかない。
だがスカートでもあのふんわりした尻尾では少々……不可思議なことになってしまう。
変化してもらってもいいのだが、七宝はまだ変化は苦手と見えて、いつも尻尾が飛び出す。
たとえ上手くいったとしても、突然街中で尻尾がひょいと出ればそれは困ったことになるだろう。

「何を決めたんじゃ?」
かごめの肩にのってその本を見つめていた七宝が不思議そうにかごめに尋ねた。
「みんなに着せる服よ! でもごめん、七宝ちゃんは無理かも……ごめんね」
「ああ、この時代では我々の格好が目立つからですか?」
「うん。だから犬夜叉も弥勒さまも珊瑚ちゃんも、外出するには服がいるの。でも七宝ちゃんのが……」
うーん、と考えるかごめ。
やはり七宝だけお留守番というのはあまりにもかわいそうだ。
「尻尾が出るからかい? 変化でもしたらどうなのさ、七宝」
ひょいと向けられた珊瑚の視線に七宝はぴし、と固まる。
「お、おら……見ての通りじゃっ!」

ぽぉん、と軽い音がして現れたのは、珊瑚。
だが。
……尻尾が、ある。

「ほぉ、これはこれで可愛らしいですなあ……」
にたにたと邪心丸出しに呟く弥勒に制裁を加えつつ、珊瑚はため息をついた。
かごめも同様である。

「ね、尻尾がだめなのよー……犬夜叉は帽子被るだけでいいんだけどね」

「お、おら我慢するわい。かごめの弟と遊んどる。かごめの家の中じゃったらいいじゃろ?」
「う、うん……そうだけど。ごめんね、七宝ちゃん」
思わぬところでぶつかった壁に、心底申し訳なさそうにかごめは言った。
外にはきっと、七宝が目を輝かせて喜ぶようなものが沢山あるだろうに。

――まあ、仕方ない、かな。

妖怪変化のいないこの現代、こんな壁は仕様がない。
はぁ、と一息ついてからかごめは切り替えた。

「それじゃ、男子は退出! 珊瑚ちゃん、一緒に買い物行こっ! 私の服貸すから!」
きらん、と光った目に見つめられて、珊瑚はぎくりと息を飲む。
「え、え、あたしは別に……」
たらりと冷や汗がこぼれるのが分かる。
まさか短い着物を着るのか?
遠慮願いたい。
何があっても遠慮願いたい。
「行こうよ、行こうよ珊瑚ちゃん!」

だが。
後光さすようなかごめのにっこり笑顔には珊瑚も勝てなかった。

***

で、結局珊瑚が着せられたのは、「短い着物」だった。
かごめが取り出すのは全部その短い着物ばかりで。
どうしてもこれを着せたかったに違いないと内心珊瑚は思っていた。
足をこれだけ出すなんて、と身ぶるいするような思いだったが、かごめの圧倒的な無言の抑圧に気おされて、結局負けた。
野郎二人が去ったかごめの部屋で、彼女は上機嫌に自分の「くろーぜっと」とやらを引っかき回していた。

出されたものは、不思議に強い素材の、前開きの羽織のようなものだった。
長さは膝上くらいまである。
それをかごめに言われるまま、小袖を脱ぎさらしだけになって、「ぱんつ」とやらをはかされて、前を留められた。
その上に、緩い革だろうか、革で出来たひもを帯のように巻きつけ、袖を肘が出るか出ないかくらいに捲られた。
珊瑚としてはもはや何も来ていないに等しい。
もう真っ赤になりながらかごめの家を出、歩いていた。
かの法師の前を通る時など心臓が止まりそうだったくらいだ。

一方かごめは似たような素材で白い線がところどころに入った着物を着ている。
それは胸のあたりまでと腕がすべて丸見えで、あまりの露出に珊瑚は目を回しそうだった。
それでも平気な顔をしている彼女の心境がよくわからない。
珊瑚の着替えをしながら、彼女は珊瑚が身につけている暗器の多さに驚いていた。
外すのに苦労した様子だったので、それは珊瑚が自分で外していったのだが。

まったくの丸腰で、しかもこのような格好なのが、非常に、不安だった。
現代は妖怪なんか出ないから安心よー、とかごめは言っていたが。
足の苦無だけ外さなかったのは、かごめにも内緒だ。

***

そして二人は今、デパート。
珊瑚は道中でも車やら電車やら、色々なものに驚いていた。
建物の高さ然り。
その人の多さ然り。

そりゃあそうだわ、と思いつつ、家を出る際に真っ赤な顔をしていた珊瑚を思い出して、かごめは内心ほくそえんだ。
弥勒が一瞬「かごめさまありがとうございます」といった目くばせをしていたことも忘れない。
彼女は着せ替え人形ではないと思いつつも、色々と服を着せてみたくて仕様がなかった。
とりあえず着せたのはデニムシャツワンピース。
長い黒髪がさらりと風に揺れる様が、非常に美しい。
まるでモデルだわ、と感嘆して彼女を見つめた。
ヒール付のサンダルには、案外すぐに順応したように感じる。
草履と似ているからだろうか。

彼女とそろいで、かごめもデニムのワンピースを選んだ。
珊瑚は旅をする仲間でありながら、かごめにとっては戦国時代での無二の親友。
女同士でこうして買い物など、これ以上嬉しいことはない。

というわけで、まずは犬夜叉と弥勒の服を選ぶべく、二人はメンズコーナーにいた。
犬夜叉の髪から考えて、どうしてもストリート系ファッションになってしまう。
缶バッチのついた帽子と、たぼたぼのジーンズ、そしてこれまたゆるめのパーカーを購入する。
これで髪を後ろで縛ればまあ現代にいてもおかしくない感じにはなるだろう。

「ねえかごめちゃん、これって袴みたいなもの?」
ジーンズを取り出して珊瑚が尋ねる。
「うん、まあそんな感じかな。あ……ていうか下着買わなきゃいけない!?」
「下着って? さっきの『ぱんつ』みたいな?」
「うん、そうそう」
うーん、と珊瑚は指を顎にあてて考える。
はて、これは必要なのか?

「ねえ、かごめちゃんの国の着物を着る時には絶対ぱんつを履かなくちゃいけないの?」
「え? あ、うん」
素朴すぎる疑問にかごめは驚かされる。
「じゃあ、要ると思う」
「そ、そっかあ」
あはははー、と笑ってかごめは渋々男性用の下着を二枚購入した。
なんだかとても虚しい感じがした。
……色々な意味で。

「じゃ、次は弥勒さまの分ね!」
かごめは売り場を移動する。
珊瑚は黙ってそれに従っていた。
「ねえ、弥勒さまにどんなの着て欲しい?」
「どんなのって……法師さまは袈裟でいいんじゃないの? それ以外考えられないんだけど」
「あー……」

確かに彼の分は非常に考えづらかった。
最初はスーツ? など思ったが、一瞬で払拭した。
だめだめ、それじゃ完璧ホストだわ! と。
結局カジュアルにせざるを得ない。

彼の色目から考えて、紫のイメージがどうも抜けきらず、白のタンクトップに紫のシンプルなシャツという選択になってしまった。
下は勿論ジーンズである。
人のイメージってなかなかだわ、と思いつつ、かごめはレジで支払を済ませた。
ていうか男の子の服考えるなんてなかったものね。

次はかごめお待ちかねの珊瑚の番である。
もう買うものは決めてあった。
露出を嫌う彼女のこと、ミニスカートは履かせないが、ロングなら構わないだろう。
ということでロングワンピースにもうすでに決定していた。
が、それを買うだけでは物足りない。

――試着させまくる!

「かごめちゃん、やっぱこれすーすーしてなんかやだよ……じろじろ見られてる気もするしさ」
あああ、と疲れた表情でこぼした彼女にかごめは苦笑する。
先ほどから軟派でもしようかという男が数人いたのには気づいたいたが、珊瑚が殺気を放って追い払っていた。
その点自己防衛は完璧である。

「だーいじょうぶ、似合ってるから! それに弥勒さまも可愛いって言ってたでしょ?」
「……え? そんなこと言ってた?」
「あ、気付かなかったのね……」
真っ赤でうつむき加減に歩いていた彼女は、頭の中パニック状態だったのだろう。
弥勒が珊瑚が通る際に「可愛いですよ」と言ったのも聞こえていなかったらしい。

「女の子は男に可愛いとかきれいとか言わせてなんぼなの! だから珊瑚ちゃん、がんばるわよ!」
弥勒さまとのデートもあるし、ね?
そう目くばせして早速手当たり次第彼女に似合いそうな服をかき集める。

その日、試着の嵐に、珊瑚は疲弊しきって帰宅した。
充実感にきらきらしたかごめと共に。



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テンション任せに書いたので非常に仕上がりが悪い気がいたします;
今回はかごめの野望編、で(笑)
弥勒の服がですね、どうにも考えられませんでした。
革ジャンとかもいいかなと思いつつ、季節が春〜初夏設定なので変ですし。
今回も楽しんで書けました。
連載はいつまでも終わらなさそうな気さえします(笑)現代版にも取り組みたいと思っております。
ここまで読んで下さってありがとうございました。

2009.05.31 漆間 周